「国立自然史博物館」構想に対するいくつかの考え

2月17日(月)に西日本自然史系博物館ネットワークの研究会がうちの館であり、その第2部で「国立自然史博物館」構想という話が馬渡駿介さん(北大名誉教授)からありました。これは自然史系標本の集約的な収蔵機能を持ち、かつ高度な研究機能を担う機関を日本も作るべきである、というお話でした。それに対してうちの佐久間さんが、これから国立の自然史博物館を作ろうとするのであれば地方の博物館をサポートするような機能を持ち、博物館ネットワークを支える役割を持ってほしい、という話でした。(この話題提供の中には自然史標本を文化財と同格の「自然史財」として位置づける法改正の提案もあり、国立自然史博構想と不可分ではあるのですが、ひとまずこの話はおいておきます。)


今の私にとっては目の前の標本をどうするか、博物館をどうするか、ということに関心があるわけで、やはり地方の博物館に携わる身としては、佐久間さんの意見には大いに与するところです。自然史学会連合の博物館部会でも、東日本にも西日本のようなネットワークがほしいけどそのコアになる組織づくりが難しい、という意見があるわけで、これは重要なニーズであり、そしてシーズではないかと思います。


ただ、先日の研究会がそういう議論に踏み込めなかったので、では具体的にどういう機能があればいいのだろう、というのを自分で考えてみることにしました。思いつくままなので、あまり脈絡がないかもしれませんが。


・保存科学の研究拠点を作る
 日本では、自然史標本の保存科学を専門にやっている人はいないように思われます(ひょっとしておられるんでしょうか。私が知らないだけ?)。何かしらみんな経験と口コミでやってるところがあって、それは大方うまく行ってるのですが、科学的根拠があるかというと微妙なところもあります。例えば北陸の館に勤務した経験から言うと、日本海側と太平洋側で外気の温湿度環境は相当異なるため、太平洋側の人たちの空調管理の考え方が通用するかというと、そうではありません。こういう日本特有の問題なり、もっと基礎的な保存科学を究める拠点はあってもいいのではないかと思います。これを地方で個別にやるのは、かなり厳しい。


・遺伝情報の資料保存機能を作る
 普通の標本の保存は地方の博物館でもできるのですが、遺伝情報を読むための資料の長期保存(例えば極低温管理)は難しいでしょう。地方の資料保存は地方で、という考え方は維持すべきですが、遺伝情報の資料については集約的に保存するのが現実的なように思います。例えば、地方の博物館で生物標本を作ったら、その組織の一部を国立自然史博に送る、国立自然史博はDNAバーコーディングをして同定結果のフィードバックをするand/orデータベースに登録する、国立自然史博は本体標本の保管情報(その博物館の登録番号)とひも付けして資料を遺伝情報用に収蔵保管する、という仕組みはどうかなあと思います。地方の博物館にしてみたらよくわからない分類群の生物の同定結果を知る一手段になるし、国立自然史博にしてみたら自動的にサンプルが全国から集まってくるわけで、何かしら面白いことができそうな気がします。


・情報ネットワークサービスを作る
 これは例えばサイエンスミュージアムネットなどの形ですでに科博が提供してくれていますが、さらに発展させる余地はあるでしょう。古い文献・写真・動画のアーカイビングをサポートしてくれたらありがたいと思います。あるいは、これは以前から思うことですが、地方の博物館向けに電子ジャーナルのアクセス権を国が確保してくれたらありがたいなあと思います。もちろん、地方は情報をくれというだけでなくて、持っている情報を発信する必要もあります。例えば各地のセミナーだとか観察会の動画を集約してネット配信する、というのは面白そうです。


 など、適当に思いついたままですが、また何か出てきたら追記して、そうすれば何かしら一般論として総括できるかもしれません。この研究会で出た話の一つは国立自然史博の設立がジョブマーケットの創出(=若手の就職先)になる、という点だったのですが、私としては「ハコ」を作ればジョブマーケットができる、という発想はあまり好きではありません。ジョブマーケットのことを言うのであれば、既存のインフラ・リソースである地方の博物館の調査研究なり、資料収集・保管なり、普及教育なりをサポートしてその活動環境をよくすることも、実質的にジョブマーケットの拡大につながる手だてだろうと考えています。優秀な若手の人たちの活躍の場が増えるのではないかと。


まだ考えがまとまっていない部分もありますが、もし、何かご意見があれば、ぜひお聞かせください(あと、個々人の方の発言の解釈が間違ってたら、指摘してください)。


第22回自然史標本データ整備事業による標本情報の発信に関する研究会
生物多様性インベントリーの活用と自然史標本の文化財化」
http://www.naturemuseum.net/blog/2014/01/2014217_22.html


(佐久間さんの当日のスライド)
http://www.slideshare.net/sakumad/2014-31315890